薪ストーブと、放射能 part1

ほんの少し前まで、こんなことが話題になるとは思ってもみませんでした。福島第一原子力発電所の事故は、東日本全体に放射能汚染という被害をもたらしてしまいました。そして放射能の影響は、薪ストーブの燃料である「薪」にも出ています。ここで現状について、少し報告しておきましょう。

放射能の影響についてはさまざまな見解があり、専門家の間でも意見が一致していないことはご承知の通りです。今から私が書くことも、2012年5月の時点の話であり、今後、状況が変わっていくことも考えられますので、ご了承ください。

原発事故の後、次々に多くの放射能汚染が発覚し、後手に回るようにしてですが放射能の暫定基準値が設定されています。牛乳なら1キロあたり50ベクレル以下、保育園の園庭なら1時間あたり0.23マイクロシーベルト以下、といった暫定基準値なのですが、一般廃棄物の焼却灰の場合、1キロ当たり8000ベクレル以下となっています。

2012年1月に、福島県の民家で使用された薪ストーブの「灰」から、1キロあたり4万ベクレルを超える高い放射性セシウムが検出されました。使用した「薪」は、原発事故の前から民家の庭に置いてあったものだそうで、薪そのものからも高い放射性セシウムが検出され、明らかに原発事故の影響であるとされています。

そこで環境省は、2012年1月19日に、除染の重点汚染地域(102市町村)がある県に対して、薪ストーブを使用した際に出る灰の取り扱いについて、通知を出しました。安全性が確認された場合を除き、焼却灰は庭や畑にまいたりせず、市町村が一般廃棄物として収集、処分するように求めています。対象となったのは岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉の8県です。(環境省ホームページに詳しく書かれています)
さらに林野庁から、森林組合などに対して、1キロあたり40ベクレルを超す「薪」について、流通や使用を控えるようにとの指導もされ、さらなる周知の徹底が呼びかけられています。指標値が適用される範囲は、上記8県と青森、秋田、山形、東京、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡の9県のあわせて17都県で、この地域で生産された薪については放射性物質の検査をし、40ベクレル以下であることを確認しなければ流通させないよう発表されました。しかし事故以前に加工されて屋内で保存されていた薪や、事故以降に放射能の影響を受けない環境で生産、保存された薪については、検査は必要ないとされています。

この薪における「1キロあたり40ベクレル以下」という数字は、一般廃棄物の「1キロあたり8000ベクレル以下」という基準から追いかけた数値です。薪から灰になる過程で、セシウム濃度が200倍になる、という考えから計算されています。また林野庁では、実験結果から薪に含まれる放射性セシウムの約9割がその灰に残るとしています。

実際に、上記の指定地域内で最近伐採した木の放射能を、私が検査機関に測定を依頼したところ、1キロあたり40ベクレルを微量ですが超えた数値が出ました。しかしこういった測定値も、あくまで目安です。「ホットスポット」と呼ばれる放射線が高い地域の薪であっても、保存の際に雨ざらしだったか、屋根あるいはカバーがかけてあったか、皮をむいてあったか、雨に何回あたったかなど、さまざま条件によって汚染度が変わるでしょうし、測定方法によっても数値は変わってきます。

では実際に、40ベクレルを超える薪を燃やしてしまったら、健康被害が出るのでしょうか? 
たとえば薪を運ぶ際のリスク、薪をくべる時にストーブ内の灰からの放射線を浴びるリスク、微量ながらその灰を体内に吸い込んでしまうリスクなどが考えられますね。このことについては、環境庁がかなり細かい検証をし、数値を出して評価しています。

結果から言えば、「1キロあたり40ベクレルを超える薪を燃やして1年間薪ストーブを使ったことによる被ばく線量は、子どもで0.00584ミリシーベルト」となっています。また今回福島で観測された薪ストーブの灰の放射線量最高値は24万ベクレルでしたが、そのような薪を使った場合の被ばく量は、同じく子どもで「0.1752ミリシーベルト」と計算されています(環境省ホームページより)。

この数値をどう評価するかですが、原発事故が起こる以前、国が定めていた放射線被ばく量は年間1ミリシーベルト以下、ということでしたから、40ベクレルの薪による被ばく量は、微量であることが分かります。かなり安全を見込んだ数値なのではないかと思います。

また環境省の評価では、「やむをえずそれ以外の薪(1キロあたり40ベクレルを超える薪)を使用する場合でも、放射性セシウムが付着している表面を取り除いて使用することにより、被ばく線量を低減することが可能である」と書かれています。流通は控えるように、とのことですが、自宅で使用する際には、表面を洗ったり、保管に注意すれば、使ってもいいだろう、ということなのだと理解できます。
数値の羅列になってしまい、かなり堅苦しい話になってしまいましたが、要は、「薪ストーブによる被ばく量は微量ですが、念のため安全な薪を使ってください」ということだと思います。

ここで気を付けなければいけないのは、放射線による健康被害については、正解が出ていないということです。専門家の間でも意見がさまざまに分かれています。ある人はこの数値が安全だと言い、ある人は危ないと言う。あなたの家族、隣人、友人の間でも、ある人は全く気にしないし、すごく気にされる方もいると思います。そして、すごく気にされる方に対しては、「これくらいだからいいだろう」という考えは乱暴すぎる言い方ですし、通用しないのです。

もしあなたの薪ストーブに対して隣人の方が「放射能は大丈夫なの?」と聞いてきたら、できるだけ前述したような客観的事実を挙げ、十分に注意して使っていることを説明したほうがいいでしょう。それでも「心配だからやめてくれ」と言われてしまうかもしれません。そのくらい放射能汚染はデリケートな問題なのです。

一方で、灰にすることで放射能が濃縮されるのだから、かえって除染になるのではないか、といった意見を述べている人もいます。汚染された可能性のある薪をそのまま庭先に放置しておくより、燃やして、灰を安全に保管、処理したほうが良いのではという考え方です。でもこれは、あくまで自己責任で行う場合の話で、隣家が近い住宅街では賛成できる考えとは思えません。

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筆者:鷲巣 勤プロフィール

薪ストーブショップ『ブロス』のオーナーとして薪ストーブの世界にかかわること25年あまり。自宅ではバーモントのアンコールを使用。横浜店ではモルソー・7140を、山中湖店ではデファイアントとヨツールF500を楽しんでいる。