メジャーになった薪ストーブ

以前は、薪ストーブユーザーのイメージは、なんとなく統一されていました。アウトドアが好き、キャンプや釣りが好き、ログハウスが好き、デジタルは苦手でアナログが好き、モノ造りが好き、そんなタイプの人たちです。当然ながら薪ストーブを売る側の人間も、似たような匂いを持っていまして……(笑)。ですから、薪ストーブについてもあまり詳しい説明をしなくても済んだ部分もありますし、下手をしたらユーザーさんの方が詳しかったりすることもありました。

ところが最近、薪ストーブ談義をしていて「あれっ?」と思うことがしばしばあるのです。昔の常識今の非常識とでも言いましょうか。

「電源コードはどこに差すんですか?」   電気は使いません。
「スイッチはどこにあるんですか?」    スイッチはありませんよ。
「どうやって消すんですか?」      えっと、すぐには消せませ〜ん。
「サビが出ているんですけど」      ステンレスではありませんから。
「煙突の塗装がはげたんですけど」   塗装はいつかはげるものですよ。
「薪に虫がついている……」       木ですから。外に置いておけば虫はつきます。
「薪にカビが……」             上に同じ。
「薪を家に入れたら一緒に虫が入った」  気を付けてくださいませ。
「台風の日、煙突から雨が吹き込んだ」   夏、ふたを閉めているわけではないですから。
「室内に煙が出てくるけど・・」  煙突が詰まっていませんか?
「薪になかなか火がつかないけど・・・」  薪が湿っていませんか?

こんな会話が日常的にあります。

薪ストーブは機械・器具ではなく道具なのです。現代の社会生活は、全て至れり尽くせりで、先回りして判断し処理してくれる環境です。いつの間にか、使い手が工夫し考えなければ正しく機能しない道具の使い方を忘れてしまったようです。道具は全ての人が同じような結果が得られるわけではないのです。道具は使用者の責任も発生するものなのです。

キャンプをしたことも釣りをしたこともないし、アウトドアにもあまり興味は無い。デジタル機器に詳しくてスマートフォンもパソコンも難なく使いこなすバリバリの仕事人。

絶滅危惧種や地球温暖化にはとても関心があるし、できるだけナチュラルな生活の中で子供を育てたい。そんな若いご夫婦。

仕事一筋で、やっと定年を迎えて時間ができた。家にいる時間が増えたので、薪ストーブの管理は自分ができると思う。原発問題などで今後の電力供給も心配なので、太陽光パネルの導入も考えている。薪割りなどもやってみたいけれど、斧を持ったことは無い。「そんな私でも薪ストーブは使えますかねえ」と相談してくれる、真面目な熟年男性。

ある意味で、閉じられたていた薪ストーブ業界。薪ストーブが大好き、というコアなユーザーが占めていた薪ストーブの世界だったのですが、今やその戸口は一般ユーザーに開かれました。しかし反面薪ストーブの基本的な特質を理解していない方々も増えています。

ユーザーの裾野が広がる、というのは薪ストーブ屋としては非常に喜ばしいことですが、同時に売る側にも多種多様な人がかかわるようになってきました。新規参入、というものです。どんな商売も、商品に人気が出れば、新規参入が増えるのは当然のことです。

しかし、「経験の無い人が、経験の無い人に売る」という、ちょっと憂うべき状態が生まれてきているのも事実です。

2008年。私は、薪ストーブの選び方、設置の大切なポイントなどについての文章を、前作の「誰も言わなかった薪ストーブの話」に詳しく書きました。薪ストーブを扱って20年、会社を興して14年の私としては、当時すでにいろいろなことが心配になっていたからです。

あれから4年余り。薪ストーブブームは静かに継続中です。これだけ薪ストーブ屋が増えているのにもかかわらず、私のところへの問い合わせも増え続けているのです。かなりの人が薪ストーブに興味を持ち、導入を検討しているのでしょう。住宅雑誌やインテリア雑誌でも、必ず薪ストーブを目にするようになりましたし、もはや珍しいものではなくなりました。

しかし、さきほど列記したような、無邪気な質問を寄せてくださる方が、あまりキャリアの無い薪ストーブ屋で薪ストーブを買ってしまって、大丈夫なの? と心配がつきません。薪ストーブには良いところも悪いところもあります。ここまで読んでいただいた方には、「リスク面までちゃんと把握して買わないと、後で大変ですよ」という言葉の真意がわかっていただけると思います。

「薪ストーブはいいですよ」「だいじょうぶ、だいじょうぶ、そんな心配いりませんよ」「薪はね、そこらでもらえますよ」などと、調子の良いことばかり言う薪ストーブ屋は、本当に信用できるのでしょうか? いろいろなメーカーを比較させることもなく「この薪ストーブが一番です。他のは良くないです」などとゴリ押しするような薪ストーブ屋もいるかもしれません。家を新築する時などは、気分もウキウキと高揚していて、細かい注意を怠りがちです。どうぞ、一度冷静になって、薪ストーブ屋も厳しい目で比較してみてくださいね。


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筆者:鷲巣 勤プロフィール

薪ストーブショップ『ブロス』のオーナーとして薪ストーブの世界にかかわること25年あまり。自宅ではバーモントのアンコールを使用。横浜店ではモルソー・7140を、山中湖店ではデファイアントとヨツールF500を楽しんでいる。